はじめに
孫斌勇（孙斌勇、1976年～）浙江大学教授は、リー群の表現論で成果を挙げた数学者であり、2024年の未来科学大賞数学・計算機科学賞を受賞した。
生い立ちと教育
孫斌勇（孙斌勇、Binyong Sun）は、1976年に浙江省舟山市に生まれた。舟山市は、浙江省の大きな港湾都市である寧波市の沖合にあり、東シナ海に浮かぶ多くの島嶼からなる。
孫斌勇は双子の兄として生まれ、2歳上に兄がいた。生家は農家で裕福ではなかったが、3人の兄弟は近所でも成績優秀で有名であった。
孫斌勇は、小さい頃から数学に並外れた才能を発揮し、小学生の時に兄の高校入試模擬問題を解いたという。地元の舟山中学（中高一貫校）に入ってからも数学の成績は優秀であり、高校時代に浙江省の数学オリンピックで最優秀となり、浙江大学数学科に推薦で入学を許可（中国では保送生と呼ぶ）された。
孫斌勇は、浙江大学在学中に香港大学に派遣され、莫毅明同大学教授に指導を受けた。莫毅明教授は、複素変数の関数理論、複素微分幾何学、代数幾何学を専門とする数学者である。孫斌勇は、浙江大学を1999年に卒業し、学士の学位を取得した。
孫斌勇は、2001年に香港科技大学の大学院に入学し、リー群論の分野で研究を行い、2004年に博士の学位を取得した。
中国科学院数学・システム科学研究院へ
孫斌勇は、2005年に北京に赴き、中国科学院の傘下研究機関である数学・システム科学研究院の職員となった。同研究院は、中国国内で著名な数学研究機関であり、華羅庚や陳景潤が在籍したことで有名である。
孫斌勇が同研究所で取り組んだテーマは、リー群の表現論の分野、特に古典群であった。古典群の研究は、数学や理論物理学において重要な意義を持っており、現代数学の中核的な内容の一つである。
孫斌勇は、それまでの研究成果を踏まえ、典型群の無限次元表現理論を研究し、古典群の単体定理を証明した。さらに孫斌勇は、異なる群間の保型形式を研究するための重要な方法の 1 つであるシータ対応の理論の研究を進めた。
これらの業績により、孫斌勇は2019年に中国科学院院士に当選した。その年に当選した院士の中で、42歳と一番若い院士であった。
未来科学大賞数学・計算機科学賞受賞
孫斌勇は、2024年に未来科学大賞数学・計算機科学賞を受賞した。
受賞の理由は、「リー群表現論の分野での重要な業績、特に古典群の単体定理、シータ対応理論、ランキン・セルバーグ畳み込みにおける非ゼロ仮説（significant contributions to the representation theory of Lie groups, focusing particularly on the multiplicity one theorems for classical groups, the theory of theta correspondence, and the non-vanishing hypothesis in Rankin-Selberg convolutions）」となっている。
未来科学大賞は、香港を拠点とする未来科学賞財団が中国における優れた業績を表彰することを目的として2016年に創設した賞であり、生命科学、物質科学、数学・計算機科学の3分野がある。
浙江大学へ
孫斌勇は2020年に、母校である浙江大学に移り、数学高等研究院の教授となった。現在も同大学で研究を続行するとともに、後進の育成に当たっている。
なお、浙江大学は近年、中国でも数学やAIの研究で優れた成果を挙げており、同大学を卒業した梁文鋒（梁文锋、Wenfeng Liang、1985年～）は、2025年にAIモデルのDeepSeek-R1を発表し、世界に衝撃を与えた。
参考資料
・浙江省科学技術協会 “浙里”科学家故事㉑丨孙斌勇：我就是一个选择了做数学研究的普通人 https://mp.weixin.qq.com/s/6TeNL9xBU9UY7boP4PgBIg
・浙江大学数学高等研究院HP 孙斌勇 教授
http://www.iasm.zju.edu.cn/2021/0525/c24255a2380363/page.htm
・未来科学大賞HP 2024 数学与计算机科学奖 获奖人 孙斌勇 Binyong Sun
https://www.futureprize.org/cn/laureates/detail/83.html
・浙江大学校友総会HP 祝贺！浙大孙斌勇院士获2024未来科学大奖
